ベトナム起業の初期費用やコストを抑える準備のコツを詳しく解説します。
ベトナムでの事業展開において、法律や規制への理解は極めて重要です。外資比率の制限や労務管理、法改正の対応など、進出前に把握すべき基礎知識を、実務視点でわかりやすく解説します。
目次
ベトナムビジネスに必要な法律
ベトナムで事業を展開する際には、現地の法制度を正しく理解しておくことが不可欠です。とくに外資企業にとっては、制度の仕組みや運用の違いが予期せぬトラブルにつながる場合があります。ここでは、ビジネスに関わる主要な法律の枠組みと特徴について解説します。
制定法を中心としたベトナムの法体系とは
ベトナムの法体系は、いわゆる「大陸法」に分類されます。これは、法の根拠を成文化された条文に求める体系で、制定法を中心に構成されています。
法の構成は階層的になっており、国会が制定する「法律」を最上位とし、その下に政府が発出する「政令」、さらに各省庁が発行する「通達」などが存在します。これらは日本の法律、政令、省令などと対応関係にあり、構造上の共通点が見られます。
日本と共通点の多いベトナムの法制度
ベトナムはフランスの統治を受けた歴史があるため、法制度の基本構造にはフランス法の影響が色濃く残っています。そのため、日本と同様に「成文法による規律」を重視する傾向があります。
また、法律の規定が抽象的なことが多く、実務では政令や通達によって具体的な運用方針が補足されています。この構造は日本と類似しており、法的な枠組みへの理解を深める際に役立ちます。
法律・政令・通達の違いと役割
ベトナムの法制度では、各階層の法令が異なる役割を担っています。
- 法律(Law):国会で制定される最上位のルールです。企業活動に関する基本的な義務や権利が規定されています。
- 政令(Decree):政府が制定し、法律を具体的に補足します。法の運用を現場で実行するための基準として扱われます。
- 通達(Circular):関係省庁が発行し、政令をさらに詳細化した指針です。実務レベルでの判断に活用されることが多く、企業活動の現場では重要な参照資料となります。
これらの関係は上下関係にあり、通達は政令に、政令は法律に従うかたちで運用されています。
商法や会社法など主要なビジネス関連法
ベトナムで企業活動を行う際に関係する主な法律として、以下のようなものが挙げられます。
- 商法:取引や契約に関する基本的なルールを定めています。企業間の売買や商行為に適用され、広範な業種に影響します。
- 会社法(企業法):会社の設立、運営、合併、清算などに関する規定を含んでおり、企業の法人格に関する法的根拠となります。
- 投資法:外国企業による投資活動に関する枠組みを規定しています。外資比率や投資分野の分類などもこの法律に基づきます。
- 競争法:不当な取引制限や市場独占を防ぐための規定を設けています。企業間の健全な競争を維持するために重要です。
いずれの法律も、政令や通達によって補足されており、実務ではそれらを含めた総合的な確認が必要となります。
ベトナム進出企業が直面する法的リスクとは
ベトナムでのビジネスには、大きな成長機会がある一方で、制度運用の不透明さや実務上の不確実性といった法的リスクも存在します。ここでは、現地で実際に起こりやすい主なリスクについてご説明します。
突然の法改正
ベトナムでは、新しい法律や通達が突如発表され、公布と同時に施行されることがあります。たとえば、税務関連や通関手続きに関する規定が、予告なく改定されるケースが確認されています。実際には、現場での運用が定着するまでに数か月を要することが多く、その間、担当官による判断が揺れることや、関連手続きが一時停止する状況も見受けられます。
裁量行政のリスク
同じ法令であっても、当局の運用や解釈にばらつきが生じることがあります。たとえば、ホーチミン市とハノイ市で、同一の通達に対する認識が異なる事例が報告されています。さらに、同一機関内であっても担当者の異動により、以前と異なる説明がなされるケースもあり、企業側に混乱をもたらす要因となっています。
裁判例や行政指針の不足
ベトナムでは、裁判例や行政機関の指針が十分に蓄積・公開されておらず、法律の文言だけでは対応の判断が難しい場合があります。たとえば、不当な競争行為に関する条文が抽象的な表現にとどまっており、事案ごとの判断基準が明確に示されていないことが見受けられます。このため、企業が自律的に判断することが難しくなり、結果的に当局の判断に依存する場面が増えています。
撤退時の税務調査と清算手続きの遅延
ベトナムでは、企業が事業を終了する際に税務調査が実施されることが一般的ですが、この調査の開始までに相当の時間がかかることがあります。
具体的には、調査の順番待ちや担当官の交代による手続きの停滞が発生し、全体の清算手続きが2年近くに及ぶ事例も確認されています。撤退がスムーズに進まない背景には、実務上の優先度の低さや行政手続きの煩雑さが影響していると考えられます。
外資企業に関する規制と緩和
ベトナムでは、外資企業の参入が年々進んでいますが、すべての分野で自由化されているわけではありません。ここでは、これまでの規制緩和の流れや、現在も適用されている規制内容についてご説明します。
WTO加盟以降の外資規制緩和
ベトナムは2007年に世界貿易機関(WTO)へ正式加盟しました。これに伴い、外資企業に対する参入制限の大幅な見直しが行われ、特定業種を除き、外資による事業活動が原則として認められるようになりました。とくに製造業や一部のサービス業では、100%外資による法人設立が可能となり、海外からの直接投資が活発化するきっかけとなっています。
外資比率に制限がある業種
すべての分野で外資が自由に参入できるわけではなく、現在も出資比率に制限が設けられている業種が存在します。たとえば、通信、広告、教育、医療など一部のサービス業では、外資の持分比率に上限が設定されています。これらの分野では、ベトナム政府の承認や、現地パートナーとの合弁形態が求められることがあり、事前の確認が重要となります。
ネガティブリストに基づく投資制限
ベトナムでは、投資分野に関する「ネガティブリスト」が運用されており、外国企業の投資が禁止または条件付きで認められる業種が明示されています。このリストは、政府が定期的に見直しを行っているものの、近年は更新頻度が低く、最新の運用状況を確認する必要があります。なお、ネガティブリストはベトナム語での公開が中心となっており、日本語での正確な情報を入手するにはJETROやJICAの支援が参考となります。
ベトナムにおける外資小売・流通のルール
小売・流通分野では、外資企業による市場参入は段階的に緩和されてきましたが、依然として特有の規定が存在します。たとえば、2店舗目以降の出店には「経済ニーズ審査(ENT)」と呼ばれる行政審査が必要とされ、現地経済への影響や競争状況が考慮される仕組みとなっています。
また、商品販売の範囲や関連する活動内容についても、商工省が発出する通達などに基づき細かく規定されています。これらの制度は、自由化の一方で、一定の国内保護政策が継続していることを示しています。
進出前に確認しておきたい労務・人材関連法
ベトナムでの事業展開においては、法制度の理解だけでなく、現地の労働環境や人材事情を正しく把握しておくことが不可欠です。ここでは、労務に関する基本的な法律と実務上の特徴についてご説明します。
ベトナム労働法の基本と日本との違い
ベトナムでは、2019年に改正された労働法が現在の労務管理の基本法令となっています。この法律では、労働契約の締結、労働時間、賃金、休日、安全衛生などに関する規定が整備されています。日本との大きな違いの一つとして、雇用主による一方的な解雇が原則として認められていない点が挙げられます。また、すべての労働契約は文書化が義務づけられており、就業規則の登録なども法律上の要件として定められています。
転職文化が根づくベトナムの人材市場
ベトナムでは、労働者が転職によってキャリアアップや賃金向上を図る傾向が強く見られます。とくにIT分野をはじめとする専門職では、頻繁な転職が一般的となっており、企業間での人材獲得競争が激しくなっています。このような背景から、安定雇用を前提とする日本型の雇用慣行は定着しにくい状況にあります。採用後の定着を図るためには、給与水準以外にも柔軟な職場環境の整備が重要とされています。
解雇・契約終了に関する法的制約
労働契約の終了には、法律上定められた正当な理由と手続きが必要となります。たとえば、就業規則違反や生産再編による人員整理など、限定的な要件に該当する場合に限って、解雇が認められる仕組みとなっています。
また、解雇にあたっては、事前通知や補償金の支払いなどの義務が発生するケースもあり、法的手続きを省略した場合には労働争議に発展する可能性もあります。ただし、実務上は退職金の支払いなどにより円満な退職が成立する例も多く見られます。
福利厚生やチームビルディング
ベトナムでは、若年層が労働市場の中心を占めていることから、福利厚生の内容や職場環境の雰囲気が人材の定着に影響する傾向があります。とくに、社員旅行や社内イベントなど、集団での一体感を重視する文化が根づいています。こうした背景を踏まえ、多くの企業では、職場での結束力を高める取り組みが行われており、福利厚生制度とあわせてチームビルディングが重視される傾向があります。
税務・通関・帳簿に関する注意点
ベトナムにおける事業活動では、税務や会計に関する制度の理解と適切な対応が欠かせません。とくに外資企業においては、現地特有の慣行や運用の違いにより、注意が求められる場面が多くあります。ここでは、代表的な論点をご説明します。
ベトナムにおける二重帳簿のリスク
現地企業との取引やM&Aを検討する際には、帳簿の信頼性に注意が必要とされています。ベトナムでは、税務申告用に利益を圧縮した帳簿と、対外信用を意識して利益を強調した帳簿の2種類が存在する事例が報告されています。
このような「二重帳簿」の存在は、外部監査が義務付けられていない制度的背景と密接に関係しており、企業買収や出資の場面で大きなリスク要因となることがあります。
外国契約者税や移転価格税制
ベトナムでは、国外事業者が提供するサービスやライセンス契約などに対し、「外国契約者税(FCT)」が課税される仕組みが導入されています。この制度では、法人税と付加価値税の2つが源泉徴収の対象となり、契約内容によって税率が異なります。
また、多国籍企業に対しては「移転価格税制」の適用も想定されており、関連会社間での取引については、価格の妥当性を説明する資料の整備が求められる場合があります。
進出時・撤退時の税務手続き
企業の設立に際しては、法人登録後に税務コードの取得や帳簿様式の申告などが必要となります。加えて、定期的な納税義務や年次決算の提出など、一定の事務作業が求められます。
一方、撤退時には税務調査が実施されることが一般的であり、この調査にかかる時間や調査後の手続きの煩雑さが、事業終了までの長期化につながる傾向があります。とくに、担当官の変更などによって審査が中断されるケースが報告されています。
通関業務のハードルと越境EC
輸出入取引を行う際には、製品ごとに異なる通関手続きが必要となり、審査や書類準備に時間がかかることがあります。とくに、家電や医療機器などの一部商品については、事前審査や現地基準への適合証明などが求められる場合があります。
越境ECの分野では、GoogleやAmazonといった大手事業者を対象とした規制が中心となっており、小規模事業者に対する具体的な制度整備は進行中の段階といえます。輸出入に関する運用は変更される可能性があるため、最新情報の確認が不可欠となります。
個人情報保護とIT規制の現状
ベトナムでは、情報管理やデジタル事業の発展に伴い、個人情報やIT関連の規制整備が進められています。ただし、制度は発展途上であり、現場での運用には不透明な部分も見られます。ここでは、現状の法整備と実務面での注意点をご説明します。
個人情報保護政令の整備状況
ベトナムでは、2023年に個人情報保護に関する新たな政令案が提示されました。しかし、関係省庁による再検討が行われており、現在のところ統一的な法令としては施行されていません。これまでの運用は民法や通信法などの各種法令に基づいていましたが、それらは断片的であり、企業の実務対応にもばらつきが見られる状況が続いています。
ベトナムにおけるデータプライバシー
ベトナムでは、個人情報の保護に関する社会的な意識が比較的低いとされており、過去には感染症対策の一環として、患者の氏名や住所が広く公開された事例も確認されています。そのため、企業が情報を取り扱う際には、法令遵守だけでなく、社内管理体制の整備や関係者への説明対応など、実務面でも慎重な対応が求められます。
IT企業向け規制と今後の動向
ベトナム政府は、IT産業を重点分野として位置づけており、SaaSやオンラインサービスの成長を後押しする方針を示しています。一方で、分野別に認可制や報告義務が定められているケースもあり、外資企業にとっては事前確認が欠かせません。
とくにデータセンターの設置、コンテンツ審査、広告表示に関する規定など、規制内容は分野ごとに異なります。今後も制度改正が継続的に行われる可能性があります。
EC・SaaS事業における参入障壁
電子商取引やSaaS事業では、税務・通関・通信法規など複数の制度が重複して関与しており、進出初期には手続きの複雑さが課題となります。
とくに、通関業務は製品カテゴリごとに異なる要件が設定されており、必要書類や検査基準の把握に手間がかかることが指摘されています。また、国内向けと国外向けで適用されるルールが異なる場合もあり、事前調査が不可欠です。
ベトナムにおける法整備支援
ベトナムでは、市場経済への移行とともに、法制度の整備が段階的に進められてきました。その背景には、日本を含む国際機関・諸外国による継続的な支援があります。ここでは、とくに日本による支援と実務への波及についてご説明します。
制定法レベルの支援
日本の支援は、1990年代後半から本格化し、民法や商法、企業法など、基本法令の整備において多くの実績を残しています。とくに、ベトナムの法体系が日本の大陸法モデルに近いことから、制度設計段階での技術協力が効果的に進められてきました。こうした支援により、企業活動に関する基幹法の多くが整備され、制度的な枠組みは一定の水準に到達したと評価されています。
裁判例・行政判断の蓄積支援
近年は、制定法だけでなく、実務運用に関わる判断の蓄積にも焦点が移りつつあります。日本の弁護士や研究者が関与する支援活動では、裁判所の判決事例や行政機関による判断内容の整理が進められています。これらの取り組みは、法の解釈を具体的に示す材料として活用され、予測可能性の高いビジネス環境の整備に資するものと位置づけられています。
JICAやJETROとの連携
日本の法整備支援においては、JICA(国際協力機構)やJETRO(日本貿易振興機構)などの公的機関が中心的な役割を担っています。JICAは長年にわたり、ハノイ法科大学などと連携し、法律家の育成や制度構築の支援を行ってきました。
また、JETROは現地の法改正情報やビジネスに直結する制度変更について、日系企業向けに日本語で情報提供を行っており、実務上の支援基盤となっています。
日系弁護士による現地サポート
日系法律事務所に所属する弁護士が現地で駐在し、ベトナム企業法務に関する支援を行っているケースも増えています。M&A、会社設立、労務トラブル対応などに関する経験の蓄積は、実務対応の質を高める要素となっています。
とくに、現地当局の運用方針や手続きに詳しい弁護士による助言は、制度の運用に幅があるベトナムにおいて、意思決定の信頼性を高めるものと考えられます。
ベトナム進出時の法務体制構築ポイント
ベトナムでの事業展開を成功させるためには、現地の制度に対応した法務体制の整備が不可欠です。ここでは、進出前後を通じて実務上留意すべきポイントをご説明します。
信頼できる現地法律事務所を選ぶ
ベトナムの法律事務所には、日系、外資系、ローカル系などの種類がありますが、サービスの品質や費用感にはばらつきがあります。とくにローカル系事務所では、専門性や対応の正確性に課題があるとされる場面も報告されています。
信頼性を確保するためには、実績のある日系または外資系法律事務所を選定し、自社が検討している事業分野における経験の有無を確認することが重要とされています。
JICAや公的機関を活用した初期段階の相談をする
進出を検討している初期段階では、法律事務所に依頼する前に、JICAやJETROなどの公的機関を活用する方法もあります。これらの機関では、進出に関連する手続き全体の流れや留意点について、客観的な立場から情報提供が行われています。事業の方向性がまだ明確でない段階では、制度全体の理解を深めるためのリサーチ支援を受ける手段として有効です。
合弁事業におけるパートナー選定に注意する
現地企業との合弁による進出を行う場合、信頼性の確認は不可欠です。たとえば、過去に契約違反や不透明な資金の流れがあったケースが確認されており、実績や取引履歴を含めた事前調査が求められます。また、合弁契約においては出資比率や意思決定権の取り扱いがトラブルの原因となる場合もあるため、契約書面における法的な整理が重要とされています。
事業開始前に行うべき法的リスクの洗い出し
事業を開始する前には、該当する法令、通達、通関規則、業種別の規制などを整理し、自社のビジネスモデルに対する影響を確認しておく必要があります。とくに、製品やサービスがどの分類に該当するかによって、必要なライセンスや手続きが異なる場合があるため、事前段階での法的リスク分析は不可欠です。
ベトナムビジネス法律の最新情報について
進出後に変化する法制度に対応するには、常に最新の情報を確保しておくことが欠かせません。ここでは、公的な情報源や専門家ネットワークなど、情報収集の手段をご紹介します。
JETRO・JICA
ベトナムの法改正や投資環境に関して、日本語で定期的なレポートやウェビナーを提供している公的機関です。新制度や政府方針だけでなく、日系企業向けの実務的説明も含まれています。
ベトナム語・英語の有料法律データベース
ベトナム語・英語対応の法令・通達・判例を網羅した専門データベースでは、最新の原文や翻訳、制度解説が利用可能です。日本語情報だけではカバーしきれない細部を補完できます。
ネガティブリスト・通達文書
外資規制や特定業種の投資条件を定めたネガティブリストの最新版や、通達・政令の逐次更新もチェック対象です。運用変更による影響を早期に把握するためには、公的公告や公式サイトの定期確認が必要となります。
各分野に対応した専門家ネットワーク
法律・税務・労務など、分野ごとに対応するベトナム現地の弁護士・会計士・コンサルタントなど専門家との連携体制を構築しておくことで、実務対応の精度が向上します。情報の質を担保するうえで有効なチャネルです。
まとめ
ベトナムの法制度は発展途上でありながらも急速に整備が進んでおり、運用面でのばらつきや法改正のスピードに翻弄される場面も少なくありません。本記事でご紹介したように、制度上のポイントを押さえるだけでなく、信頼できる専門家や情報源と連携し、常に最新の動向をキャッチアップする体制が欠かせない時代です。事業の成功は、「正確に知り、早く備えること」にかかっています。未来志向での対応力こそ、ベトナム市場における持続的な成長の鍵となるでしょう。