ベトナム所得税の仕組みと計算方法は?申告・控除・税率まで解説します
ベトナムでの勤務や生活に関わる方にとって、個人所得税の正しい理解は欠かせません。本記事では、課税対象の範囲や計算方法、申告手続きの基本など、実務に役立つ情報をご紹介します。
目次
ベトナムでの所得税とは?
ここでは、ベトナムにおける個人所得税についてご説明します。
個人所得税の概要
ベトナムにおける個人所得税は、給与や手当などの金銭的報酬だけでなく、一部の現物支給や福利厚生も課税対象に含まれます。原則として、課税所得の全体に累進税率が適用されます。納税者がベトナム国内で提供する労働に対して得る収入が対象となるため、外国人であっても国内勤務の実態があれば課税の対象に含まれます。
課税対象となる手当・給与・現物支給の扱いとは
ベトナムでは、会社から支給されるさまざまな手当や福利厚生についても課税対象となる場合があります。労働契約書や就業規則に明記されている内容や、証憑の整備状況によって非課税とされるかどうかが判断されます。
課税と非課税の分かれ目とは
原則として、すべての金銭的・物的支給は課税対象となります。ただし、福利厚生のうち一定の条件を満たすものについては、非課税として取り扱われることがあります。
たとえば、労働契約書等に記載され、かつ会社から直接支払われる教育費や健康診断費用などは非課税となります。対象の範囲や証明書類の整備状況によっては、同じ支給内容であっても課税の対象に含まれる可能性があります。
住宅・車両・出張手当などの扱い
住宅費用や光熱費については、会社の負担額と一定の基準に基づく限度額のいずれか低い方が課税対象となります。また、会社が契約した車両を貸与する場合には非課税とされますが、通勤費用として現金で支給される場合には課税されます。
出張手当については、社内規定に基づく固定額で支給される場合には非課税とされます。規定を超える金額が支給される場合には、その超過分が課税対象となります。
退職金の課税扱いに関する注意点
退職金に関する課税の取り扱いは、支給のタイミングや退職場所によって異なります。ベトナムで退職した場合、原則として通常の給与と同様に個人所得税の課税対象に含まれる可能性があります。一方で、日本へ帰任後に退職した場合には、日本の法令に基づく退職所得控除が適用されるため、一定額までの退職金が非課税となります。
ベトナム退職と日本退職で異なる税務取扱い
ベトナムで退職し、国内で退職金を受け取る場合は、原則として個人所得税の課税対象に含まれます。日本帰任後に退職金を受け取る場合には、勤続年数に応じた退職所得控除が適用され、控除後の金額の2分の1が課税対象となります。
ベトナム 所得税の計算方法と控除項目
所得税の計算は、課税対象となる収入をもとに控除を差し引き、累進税率を適用して行われます。制度の仕組みを正確に理解しておくことで、納税額の見通しや実務対応に役立ちます。
課税所得の計算式
ベトナムにおける個人所得税は、総課税所得から各種控除額を差し引いたうえで、対応する税率を乗じて算出されます。算出の基本式は以下の通りです。
所得税額 =(課税総所得 − 所得控除)× 累進税率
給与・手当・現物支給などを含めた課税所得を正確に集計し、控除要件に合致する項目を反映することで、税額が確定されます。
課税対象収入の構成要素とは
課税対象収入には、月次給与、賞与、各種手当、会社負担による福利厚生の一部などが含まれます。これらは「課税総所得」として一括して計算されます。現物支給(例:住宅費や車両貸与など)も、金銭換算可能な支給であれば原則として課税対象に含まれます。非課税扱いとなるかどうかは、労働契約書や支給証明の有無によって判断されます。
累進課税制度と税率一覧(※2016年2月時点の情報)
ベトナムの個人所得税は、課税所得の金額に応じて税率が段階的に上がる累進課税制度を採用しています。課税対象となる月額所得に対して、以下の税率が適用されます。
| 税率(%) | 課税所得(月額:1万VND単位) |
| 5 | 0〜500 |
| 10 | 500〜1,000 |
| 15 | 1,000〜1,800 |
| 20 | 1,800〜3,200 |
| 25 | 3,200〜5,200 |
| 30 | 5,200〜8,000 |
| 35 | 8,000超 |
税率は現在も改正の可能性があるため、正式な適用率は都度確認が必要となります。
控除制度の種類と条件
ベトナムの所得税において、主な控除制度には以下の項目があります。
・基礎控除:11,000,000 VND/月
・扶養控除:扶養者1人あたり4,400,000 VND/月(18歳未満の子供等が対象)
・社会保険料控除:実際に支払った社会保険・健康保険・失業保険料が全額控除可能
なお扶養控除の適用では、原則として子供が優先されます。
ベトナム 所得税の申告・納税の流れ
ベトナムにおける個人所得税は、企業による源泉徴収と個人の確定申告の両方を通じて納付が行われます。月次・四半期・年末のタイミングごとに必要な手続きがあります。
源泉徴収から確定申告までのスケジュール
ベトナムにおいては、給与支払いに伴う個人所得税(PIT)の納税義務が明確に定められており、企業・従業員双方において適切な対応が求められます。
1. 月次:源泉徴収と納付
企業は従業員に給与を支給する際、個人所得税を源泉徴収し、翌月20日までに税務当局へ納付する必要があります。これはすべての雇用主に共通する法的義務です。
- 毎月の給与支給時に税額を控除
- 翌月20日までに税務署へ納付
- 電子申告・納税システムの利用が一般的
2. 四半期:国外給与がある場合の申告
外国人駐在員などが日本本社から給与を受け取っている場合、国外所得も含めて四半期ごとに申告・納付が必要とされます。これは国内外の給与合算に基づく課税が原則であるためです。
- 四半期末(3月、6月、9月、12月)を基準に申告
- 国外源泉所得がある場合、自己申告が必須
- 税務署からの追加確認や証明提出を求められる場合もあり
3. 年末:確定申告による精算
課税年度末(12月31日)時点の収入・控除実績に基づき、翌年3月15日~4月末を目安に確定申告が行われます。企業による年末調整が行われない場合、本人または代理人が手続きを行います。
- 源泉徴収済み税額と実際の課税額を比較
- 過納分は還付申請、過少分は追納義務
- 不備がある場合、税務署より修正申告の指示が出されることも
補足:注意点
- ベトナム居住者に該当する外国人は、日本での給与も合算して課税対象となります。
- ベトナム国内に183日以上滞在しているか、常設住居を有する場合は居住者と見なされるのが原則です。
日本とベトナム両方で給与がある場合
外国人納税者の中には、日本本社から給与を受け取りつつ、ベトナム現地法人からも給与や手当を受け取っているケースがあります。こうした場合には、両国の所得を合算したうえでの申告が必要となります。給与の支払元が異なる場合でも、役務の提供地がベトナムである限り、ベトナムでの課税対象となる可能性が高くなります。
現地法人と本社の調整ポイント
ベトナムでの課税対象を正確に把握するためには、日本本社とベトナム現地法人との間で、給与額・支給日・支払形態などの情報を事前に共有しておく必要があります。支払証明や源泉徴収証明書などが不備となると、課税額の誤りや税務指摘につながる可能性があります。日本側とベトナム側での記録管理と時期の調整が重要となります。
税務調査や申告漏れへの対応策
ベトナムでは、外国人に対する税務調査が定期的に行われており、申告の誤りや納税漏れが確認された場合には、追徴課税や罰則が科されることがあります。企業としての体制整備と文書管理が求められます。
延滞税や加算税の発生条件
納税義務を期限までに果たせなかった場合、所定の延滞利率に基づく延滞税が課されます。延滞期間が91日を超えた場合には、利率が加重されます。また、意図的な申告漏れや過少申告が確認された場合には、追徴課税に加えて加算税が発生します。これらの罰則は過去5年間を遡って課されることがあります。
悪質とみなされた場合の重課税リスク
税務署による調査の結果、申告義務の放棄や納税逃れの意図があると判断された場合には、通常よりも重い課税措置がとられる可能性があります。一部のケースでは、税務調査の対象期間が5年を超えて延長されることもあります。適切な記録管理と正確な申告の徹底が必要です。
企業側の対応策
- 給与支払い記録・証憑の整備
源泉徴収表、給与明細、社会保険料の支払証明など、全ての支払いに関するエビデンスを一定期間保管しておく必要があります。保存期間は最低5年間とされ、調査時に速やかに提示できる体制が求められます。 - 海外・国内の報酬に関する一元管理
日本本社とベトナム現地法人の支払い情報を突合管理し、ダブルカウントや漏れを防ぐ運用を徹底します。とくに、日本での給与を含む所得全体の把握と反映が重要です。 - 定期的な内部監査・専門家によるレビュー
税理士や会計事務所による年次のレビューを受けることで、誤りの早期発見と是正が可能になります。
外国人納税者側の対応策
- 申告範囲と申告義務の正確な把握
滞在日数・労務提供地・給与の支給元に応じて、居住者/非居住者の判定と課税対象の確認が必要です。「183日ルール」等を確認しておくことが有効です。 - 確定申告時の書類準備と期日厳守
毎年の確定申告は翌年3月末ごろまでに完了するのが通例で、
- 扶養控除証明
- 給与支払証明書(日本本社/ベトナム法人)
- 所得控除に関する証憑(保険料、教育費等)
の提出準備が必要です。 - 税務署との丁寧なコミュニケーション
不明点がある場合には、税務署に事前確認することがトラブル回避に有効です。調査時も誠実な対応を取ることで、ペナルティ軽減の余地が生まれるケースがあります。
ベトナム 所得税における居住者と非居住者の違い
個人所得税の課税対象となるかどうかは、納税者がベトナムの「居住者」として認定されるか否かにより大きく異なります。日数や滞在実態をもとに、税務上の居住者かどうかが判定されます。
183日ルールによる居住者判定基準
ベトナムにおける居住者判定は、「暦年内に183日以上滞在しているかどうか」によって判断されます。この183日には、ベトナム国内に滞在したすべての日数が含まれ、連続・非連続を問わず通算で計算されます。この基準を満たした場合には、納税義務が発生し、全世界所得に対してベトナムで課税される可能性があります。
「定常的な居所」の定義と実態判断
滞在日数が183日に満たない場合であっても、ベトナム国内に「定常的な居所」があると認められた場合には、居住者として取り扱われることがあります。この判定では、居住の実態が重視されます。契約名義の有無にかかわらず、実際の居住実態をもとに判断されるため、客観的な事実に基づく確認が必要となります。
レジデンス・ホテルも居所と認定される例
「定常的な居所」とは、生活の拠点とされる場所を意味します。レジデンス(長期滞在用住居)やホテルであっても、継続的な使用実態がある場合には居所と見なされる可能性があります。たとえば、短期出張の形式であっても、長期間にわたり同一の宿泊施設を利用している場合には、税務署から居住者と判断されることがあります。
非居住者が課税されるケースとは
居住者でない場合でも、ベトナム国内に源泉を持つ所得があれば、その収入については課税対象となります。納税義務は限定的ですが、一定の範囲で税務上の対応が求められます。外国企業からの支給であっても、ベトナム国内での業務に対して支払われる報酬であれば、ベトナム源泉所得と見なされる場合があります。
ベトナム国内源泉所得の範囲と例外
国内源泉所得には、ベトナム国内での勤務に対する報酬、サービス提供に対する報奨金、および現物支給などが含まれます。一方で、国外で提供された役務に対する対価などは、原則として課税対象外とされます。ただし、源泉の所在に関する認定は、実務上、税務当局の判断に依存する場合が多いため、あらかじめ関係書類の整備と説明責任への対応が必要です。
ベトナム 所得税の免税制度と留意点
ベトナムでは、一定の条件を満たす非居住者に対して、所得税を免除する制度が設けられています。ただし、制度の適用には細かい要件があります。
短期滞在者免税制度の適用要件
日本とベトナムの租税条約に基づき、「短期滞在者免税制度」が設けられています。この制度により、一定の条件を満たす出張者はベトナムでの所得税が免除される仕組みとなっています。制度は、雇用者が日本にあり、かつ滞在期間が短期間である場合に限定して適用されます。
免税の3条件と証明書類の準備
短期滞在者免税を適用するには、以下の3つの条件をすべて満たす必要があります。
- 暦年内のベトナム滞在日数が183日以内であること
- ベトナム国内の雇用者から報酬を受け取っていないこと
- 報酬がベトナム国内の事業体によって負担されていないこと
加えて、条件を証明するために、出入国記録、給与支払証明、契約書類などの提出が求められます。申請時点で免除が認められても、後日の税務調査で内容が否認される可能性があります。
制度適用が難しい実務上の課題とは
短期滞在者免税は制度上認められているものの、実務では適用が困難とされるケースが多く見られます。特に、日本側からの給与であっても、ベトナムでの業務に対する対価と判断されると、課税対象とされるおそれがあります。また、滞在日数や報酬負担の証明が不十分である場合、制度の適用を否認されるリスクが高まります。現地法人が業務指示を行っていた場合も、実質的な雇用関係があると見なされることがあります。
税務署による否認リスクと回避策
ベトナム税務当局は、短期滞在者免税に対して慎重な姿勢をとっており、提出書類の整合性や実態との整合が厳しく確認されます。制度の悪用防止を目的として、形式要件だけではなく、実質的な業務実態まで検証されることがあります。
否認を避けるためには、出張の都度、業務内容・報酬負担・指揮命令関係を明確に記録し、書類の整備を徹底することが求められます。事前に会計事務所などと連携し、想定される論点を整理しておくことが実務上有効です。
ベトナム 所得税に関する実務対応のポイント
ベトナムにおける所得税対応では、形式的なルールだけでなく、現場レベルの誤解や運用ミスが税務上のトラブルにつながることがあります。実務に沿った準備と対策を通じて、適切な申告と納税が求められます。
課税対象とされやすい誤解・事例と対策
実務の中では、課税対象とならないと思われていた手当や費用が、税務調査で課税対象と認定されるケースが見られます。たとえば、住宅費や教育費が労働契約書に明記されていない場合や、証憑が不十分な場合には課税対象と判断される可能性があります。
また、日本側から支給された給与についても、勤務実態がベトナム国内にあると判断されれば、現地課税の対象となることがあります。あらかじめ契約書や支払証明書を整備しておくことが必要です。
申告・納税をスムーズに進めるための事前準備
正確な申告を行うためには、事前に必要な書類と情報を整理しておくことが重要です。特に、日本給与とベトナム給与が併存している場合、両国間で支払記録や雇用条件が一致しているかを確認しておく必要があります。
また、扶養控除や社会保険料控除の適用を希望する場合には、関係書類の準備や翻訳、公的証明の整備などを事前に進めておくと、申告時の負担を軽減できます。
日本との二重課税を避けるための条約
日本とベトナムは、租税条約を締結しており、同一の所得に対して両国で課税が行われることを回避する制度が設けられています。この条約に基づいて、ベトナムで納税された税額が日本で税額控除の対象となるなどの措置が取られます。二重課税の防止には、各国の制度をまたいだ理解と、条約の正確な適用が求められます。
日越租税条約のポイントと適用例
日越租税条約では、所得の種類に応じて課税権の所在が定められています。たとえば、短期出張者の給与所得については、一定の条件を満たすことでベトナムでの課税を免除する取り扱いがあります。一方で、居住者判定や所得の源泉地など、個別のケースに応じて適用可否が変わるため、適用例に基づく検討と専門的な確認が必要となります。
まとめ
ベトナムでの所得税対応は、制度上のルールを理解するだけでなく、居住者・非居住者の判定、控除の適用、日越双方の給与管理、さらには申告書類の整備や租税条約の正確な適用まで、多岐にわたる実務対応が求められます。
特に外国人駐在員の場合、業務実態と申告内容に不一致があると、税務当局からの指摘や追徴課税に発展する可能性があります。トラブルを未然に防ぐためには、専門家と連携しながら、初期段階から準備を進めることが重要です。本記事が、ベトナムで働く皆さまの税務管理に少しでもお役立ていただければ幸いです。
ベトナムにおける現地法人設立からマーケティング・営業活動に至るまで幅広くサポートしております。まずは、問い合わせフォームまたはLINEからお気軽にご相談くださいませ。
※TOPページ下に問い合わせフォームがございます