ベトナムの税制と会計|日本企業が知っておくべき基礎知識 - VACANCE VIETNAM

ベトナムの税制と会計|日本企業が知っておくべき基礎知識

海外に拠点を設ける際、現地の税制・会計ルールを正確に把握できていないまま進出してしまい、後から多額の追徴課税や罰則を受けるケースは少なくありません。特に日本とは異なる申告スケジュールや、独自の移転価格規制が設けられている国では、事前の準備が事後の対処より何倍もコストを抑えられると言われています。

本記事では、ベトナムへの進出を検討している、あるいはすでに現地法人を運営している企業の意思決定者に向けて、法人税・VAT・移転価格税制をはじめとする主要税目の基礎から、二重課税防止条約の活用方法、会計・申告実務の要点まで体系的に解説します。2026年5月時点の情報をもとに執筆していますので、最新の税率や制度変更については所管機関(ベトナム税務総局:GDT)の公式発表も合わせてご確認ください。

こんな方にオススメ

  • ベトナム法人の設立を検討中で、税負担の全体像を把握したい社長・役員の方
  • 現地法人を運営しているが、移転価格税制や二重課税リスクに不安を感じている海外事業部長の方
  • ベトナムの会計・申告実務を日本本社側から管理・監督する立場にある方

この記事を読むと···

  • ベトナムの主要税目(法人税・VAT・個人所得税)の基本的な税率と仕組みが理解できる
  • 日越租税条約による二重課税防止の活用ポイントが把握できる
  • 移転価格税制・会計実務・申告スケジュールの注意点を整理できる

ベトナムの税制を取り巻く背景と2026年の最新動向

ベトナムは近年、外国直接投資(FDI)の受け皿として東南アジア有数の存在感を示しており、税制もその誘致政策と連動するかたちで整備が続いています。一方で、OECDが推進するBEPS(税源浸食と利益移転)対策への対応や、グローバル最低税率(ピラー2)の国内法整備が進みつつあり、税制の変化スピードは従来より明らかに加速しています。

FDI誘致政策と税制優遇の関係

ベトナム政府は長年にわたり、特定の業種・地域に対して法人税の軽減税率や免税期間を設けることで外資誘致を図ってきました。製造業・ハイテク産業・特別経済区への投資に対しては、一般的に標準税率より低い優遇税率が適用されるケースがあります。ただし優遇の内容は投資奨励法・法人税法の改正によって変わることがあるため、進出時に把握していた条件が数年後に変わっているという事態も起こり得ます。

特に注目すべき点として、OECDのピラー2(グローバル最低税率15%)に対応するかたちでベトナムも国内法整備を進めており、一定規模以上の多国籍企業グループに属する子会社については、従来の優遇税率が実質的に上乗せされる「補足課税」が適用される可能性があると言われています。御社の事業規模やグループ構成によっては、優遇税制の恩恵が想定より小さくなるリスクを念頭に置く必要があります。

電子インボイス(E-Invoice)義務化の影響

2022年から全面義務化されたE-Invoiceは、ベトナムの会計・経理実務に大きな変化をもたらしました。紙の領収書・請求書を廃止し、税務当局が指定するフォーマットで電子的に発行・保存・申告することが求められます。日本本社からの管理体制として、現地の会計ソフトや税務申告システムがE-Invoiceに対応しているかを定期的に確認する仕組みが必要とされる場合があります。

ベトナムの主要税目:法人税・VAT・個人所得税

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ベトナムで事業を行う場合に直接関わる主要な税目は、法人税(CIT)・付加価値税(VAT)・個人所得税(PIT)の3つです。それぞれの基本構造を正確に理解することが、税務リスク管理の出発点となります。

法人税(Corporate Income Tax:CIT)

ベトナムの標準法人税率は20%です(2026年5月時点)。ただし石油・ガス事業など特定の資源採掘業には32〜50%の高率が適用される場合があります。一方、ハイテク企業・ソフトウェア企業・特別経済区内の企業など、投資奨励対象に該当する場合は、優遇税率(一般的に10%または17%)および一定期間の免税・半額減税が認められることがあります。

課税所得の計算は日本とおおむね類似した損益計算書ベースですが、損金算入できる費用の要件がベトナム税法上で細かく定められています。特に、実際に支出された費用であること・事業目的との関連性があること・適法なE-Invoiceや支払証拠が揃っていることが損金算入の条件として重視されます。書類不備による損金不算入は税務調査時に頻繁に指摘される事項の一つとされています。

付加価値税(Value Added Tax:VAT)

VATの標準税率は10%です。ただし食料品・医療・教育など特定の財・サービスには5%の軽減税率が、輸出取引や国際輸送など一部には0%が適用されます。VATは前段階税額控除方式を採用しており、仕入れ時のVATを売上時のVATから控除できる仕組みは日本の消費税と類似しています。

仕入VATの控除適用にはE-Invoiceの要件を満たした請求書の保存が必須です。また、VATの申告・納付は原則として月次または四半期ごとに行われます(直前年度の申告額に応じて区分)。還付申請が可能な状況でも審査に時間がかかることが多いとされており、資金繰りへの影響を見込んだ計画が求められます。

個人所得税(Personal Income Tax:PIT)

ベトナムに赴任する日本人駐在員が直接影響を受けるのがPITです。ベトナム税法上の「居住者」と「非居住者」で課税方式が異なります。居住者(暦年で183日以上滞在等の要件)は5〜35%の累進税率が適用され、非居住者はベトナム源泉所得に対して一律20%が適用されます。

駐在員の住宅手当・帰国旅費・教育費など、給与以外の福利厚生的な経済的利益についても課税対象となるケースがあります。企業側がPITを負担する「グロスアップ」の取り扱いも申告実務上の注意点となります。

税目 標準税率 申告頻度(目安) 主な注意点
法人税(CIT) 20%(標準) 四半期仮払い・年次確定 損金算入要件・優遇税率の適用条件を確認
付加価値税(VAT) 10%(標準) 月次または四半期 E-Invoice要件・還付申請の時間的ロスに注意
個人所得税(PIT) 居住者5〜35%(累進) 月次源泉徴収・年次確定 駐在員の福利厚生課税・グロスアップに留意
源泉徴収税(WHT) 役務・ロイヤルティ等5〜10% 支払時都度 日越租税条約の適用で軽減可能な場合あり

日越租税条約による二重課税防止の活用

日越租税条約による二重課税防止の活用 1 源泉徴収税の軽減措置 2 恒久的施設(PE)認定リスクの管 3 二重課税の排除方法(外国税額控除

日本とベトナムの間には1995年に締結・発効した租税条約(日越租税条約)が存在します。この条約は、日本法人がベトナムで得た所得に対して日越両国で二重に課税されることを防ぐための枠組みを提供しています。特に、源泉徴収税(Withholding Tax)の軽減と恒久的施設(PE)の認定基準が実務上の重要ポイントとなります。

源泉徴収税の軽減措置

ベトナムでは、外国法人へのロイヤルティ・技術サービス料・利子・配当などの支払いに対して源泉徴収税(WHT)が課されます。国内法上の税率は種類によって異なりますが、日越租税条約を適用することで、例えばロイヤルティについては一定の条件のもとで軽減税率が適用される可能性があります。

条約上の軽減税率を適用するためには、ベトナムの税務当局に対して「租税条約適用申請」を行い、日本の居住者であることを証明する書類(居住者証明書)を提出する手続きが必要です。この手続きを怠ると、国内法の税率で課税されてしまうため、グループ間の資金移動やライセンス供与を行う前に確認が不可欠です。

恒久的施設(PE)認定リスクの管理

PE(Permanent Establishment)とは、外国企業がある国で課税対象となる「恒久的な事業拠点」と認定される概念です。ベトナムでは、日本本社の従業員が一定期間以上ベトナムに滞在して活動した場合や、ベトナムの代理人が継続的に契約締結権限を持って活動している場合などに、PEが認定される可能性があります。

PE認定がなされると、ベトナムでの利益に法人税が課税されます。日越租税条約にはPEの定義と免除規定が設けられており、短期の工事請負・コンサルティング活動については条約上の一定の免除条件があるとされています。しかし条約の解釈はベトナム税務当局が行うため、実務では現地の税務専門家への事前確認が推奨されます。

二重課税の排除方法(外国税額控除)

ベトナムで納付した法人税については、日本の法人税申告において外国税額控除を適用することで、日本側での二重課税を一定程度排除できます。ただし控除できる金額には上限があり、超過分の繰越制度の活用も含めた計画的な税務ポジションの管理が有効とされています。配当送金にかかる源泉徴収税も控除対象となる場合がありますので、グループ全体のキャッシュフロー計画と合わせた検討が望まれます。

移転価格税制の注意点

移転価格税制の注意点 3位 APA(事前確認制度)の活用可能性 2位 主なリスクが生じやすい取引類型 1位 文書化義務の概要

ベトナムの移転価格税制は、2017年に大幅な改正が行われ(政令20号)、その後も文書化要件が強化されてきました。日本本社とベトナム子会社の間で行われる取引(関連者間取引)が独立企業間価格から逸脱していると認定された場合、税務当局が所得を再計算して追加課税を行うリスクがあります。

文書化義務の概要

ベトナムの移転価格規制では、関連者間取引が一定の閾値を超える場合、以下の3層構造の文書化が求められます。(1)マスターファイル(グループ全体の事業・財務情報)、(2)ローカルファイル(ベトナム子会社の取引詳細)、(3)国別報告書(Country-by-Country Report:CbCR)です。CbCRはグループ連結売上高が一定規模以上の多国籍企業に義務付けられており、日本側での提出義務と連動しています。

文書化が不備な場合や期限内に提出できない場合、税務当局はベンチマーク分析を独自に行い、より不利な条件で所得を再計算する可能性があります。追徴課税に加えて延滞税・罰金が課されることもあるため、毎年の申告サイクルに文書化作業を組み込む体制を整えることが求められます。

主なリスクが生じやすい取引類型

日本とベトナムの関連者間取引でリスクが顕在化しやすいのは、主に次の3類型です。①グループ内サービス料(マネジメントフィー・シェアードサービス)、②ロイヤルティ・技術ライセンス、③グループ内融資の利息です。これらはいずれも、独立した第三者との取引であればどの程度の対価になるかという「独立企業間価格」の立証が難しく、当局の指摘対象になりやすいとされています。

グループ内サービス料については、実際のサービス提供の実態(受益者テスト)を証明できる記録が必要です。ロイヤルティについては、ベトナムの子会社がそのロイヤルティに相応する経済的便益を受けているかどうかが審査されます。融資については市場金利との比較が論点になることが多いと言われています。

APA(事前確認制度)の活用可能性

ベトナムでもAPA(Advance Pricing Agreement:移転価格の事前確認制度)が導入されており、当局と事前に独立企業間価格の算定方式を合意することで将来の税務リスクを低減できる可能性があります。ただしAPA申請には多大な準備コストがかかるため、取引規模・リスクの大きさと費用対効果を慎重に見極める必要があります。日越の二国間APAも理論上は可能ですが、手続きに相当の時間を要する場合があります。

会計・帳簿管理のルールと実務ポイント

会計・帳簿管理のルールと実務ポイント 1 VASとIFRSの主な相違点 2 帳簿・証憑の保管義務 3 法定監査の要否と実施タイミング

ベトナムの会計基準はベトナム会計基準(VAS:Vietnamese Accounting Standards)に基づいており、国際財務報告基準(IFRS)とは一部異なります。日本の親会社がIFRSまたは日本基準で連結財務諸表を作成する場合、ベトナム子会社のVAS財務諸表からの組替作業が発生します。

VASとIFRSの主な相違点

VASとIFRSの代表的な差異として、リース会計(IFRS16相当の基準がVASにはない)、金融商品の時価評価、のれんの扱いなどが挙げられます。また、VASでは過去に発行された基準の改正頻度が低く、最新のIFRS改訂に追随していない領域が存在します。現地の会計士や監査法人に、VAS→日本基準(またはIFRS)への組替スケジュールと差異リストを整理してもらうことが、連結決算の効率化に有効とされます。

帳簿・証憑の保管義務

ベトナム税法では、帳簿・会計書類の保管期間が原則として10年間と定められています(一部書類は5年等、種別によって異なります)。電子データでの保存も認められていますが、真正性・完全性・検索可能性の要件を満たす必要があります。E-Invoiceデータの長期保存体制についても、システム要件を含めた整備が求められます。

税務調査は書面調査・現地調査のいずれかで実施されます。調査対象となった場合には、調査官の要請する資料を期限内に提出する義務があります。日本語の本社資料のみでは対応できず、ベトナム語の翻訳や現地説明を担える体制が実質的に必要とされる場合があります。

法定監査の要否と実施タイミング

ベトナムでは、外国投資企業(FIE)や一定の事業会社は法定監査(外部監査)の実施が義務付けられています。監査は原則として会計年度終了後、確定申告(CIT)前に完了させる必要があります。

会計年度は暦年(1月1日〜12月31日)が基本ですが、所管機関の承認を得た上で変更することも可能です。監査法人の選定は早めに行うことが推奨されており、特に12月決算の場合は翌年3月〜4月の繁忙期に向けた準備が重要です。

税務申告のスケジュールと実務上の落とし穴

ベトナムの税務申告は複数の税目が異なるスケジュールで動くため、日本の申告実務に慣れた担当者でも混乱しやすい構造になっています。以下に主要な申告期限と実務上の留意点を整理します。

主要申告期限の一覧

申告・納付の種類 申告・納付期限(目安) 主な留意点
VAT月次申告 翌月20日まで E-Invoiceの発行・保存体制が整っていることが前提
VAT四半期申告 四半期末翌月30日まで 前年VAT年間申告額が一定以下の法人に適用
法人税(CIT)仮払い 各四半期末翌月30日まで 年間確定額の75%以上を仮払いしないと延滞税が発生
法人税(CIT)確定申告 会計年度終了後3ヶ月以内 移転価格文書・関連者間取引報告書も同時提出
個人所得税(PIT)確定申告 会計年度終了後4ヶ月以内 駐在員が自身で申告が必要なケースと会社代行のケースがある

CIT仮払いの「75%ルール」と延滞税リスク

法人税の四半期仮払い制度には、年間の確定税額に対して仮払い合計額が75%以上でなければならないというルールがあります。このルールを下回った場合、差額部分に延滞税(現行0.03%/日)が課される可能性があります。期中の業績が予算を上回った場合や、大型の一時的取引が発生した場合は、仮払い額の見直しを適時行うことが重要です。

特に期末に駆け込みで資産の売却や大型受注を処理した場合、その四半期の仮払い額が不足するケースが起こりやすいとされています。現地の会計担当者と本社の経営管理担当者が連携して、四半期ごとの課税所得見込みを把握する仕組みを構築することが望まれます。

税務調査への備えと記録管理

ベトナムの税務調査は通常、申告書提出後5年以内に実施される可能性があると言われています。調査が入った場合の対応を想定して、(1)取引に関する契約書・E-Invoice・支払記録のセット保管、(2)関連者間取引の根拠説明資料、(3)費用の事業目的を説明できるドキュメントを整備しておくことが有効です。調査対応を現地に任せきりにするのではなく、本社側でも証憑の体制を把握しておくことが、実務上の大きなリスク低減につながると考えられます。

まとめ:ベトナム税務を「制度の理解」から「実務の仕組み化」へ

本記事では、ベトナムの法人税・VAT・個人所得税の基本税率と仕組み、日越租税条約の活用ポイント、移転価格税制の文書化義務、会計・帳簿管理の実務、そして税務申告スケジュールの主要ポイントを整理しました。

制度の理解は不可欠ですが、実際に重要なのは「仕組みとして運用できているか」という点です。E-Invoiceの保存体制・移転価格文書化のサイクル・CIT仮払いの定期モニタリングなど、いずれも「知っている」だけでは不十分で、現地組織と日本本社が連携した運用体制が求められます。

VACANCE VIETNAMでは、ベトナム進出企業の戦略立案から現地実務の整備支援まで、一気通貫でサポートする体制を整えています。税制・会計の個別論点についても、現地専門家ネットワークを活用した実践的なアドバイスが可能です。進出前の事前確認から既存法人の運用改善まで、まずはお気軽にご相談ください。

最終更新日:2026年5月

よくある質問

Q. ベトナムの法人税率は日本と比べて低いのでしょうか?
A. ベトナムの標準法人税率は20%であり、日本の実効税率(おおよそ30%前後とされています)よりも低い水準にあります。ただし、投資優遇の適用有無・グローバル最低税率(ピラー2)の影響・実際に損金算入できる費用の範囲など、実効的な税負担は個別の事業状況によって異なります。単純な税率比較だけでなく、実務上の税負担全体を専門家と試算することを推奨します。
Q. 日越租税条約を適用するために必要な手続きは何ですか?
A. 原則として、条約上の軽減税率等の適用を受けるためには、ベトナムの税務当局に対して租税条約適用申請を行い、日本の税務署が発行する「居住者証明書」を提出する必要があります。支払いが発生する前に手続きを完了させておかないと、国内法の高い税率で課税されてしまうケースがあります。手続きの詳細はベトナム税務総局(GDT)の最新ガイダンスをご確認ください。
Q. 移転価格の文書化はどの規模の会社から義務になりますか?
A. ベトナムの移転価格規制では、関連者間取引の金額が一定の閾値を超える場合に文書化が義務付けられます。また、CbCR(国別報告書)はグループ連結売上高が一定規模(一般的に7億5,000万ユーロ等の基準が参照されています)以上の多国籍企業グループに適用されます。具体的な閾値は規制改正によって変わることがあるため、最新の政令・通達を確認するか、現地の税務専門家に相談することを推奨します。
Q. ベトナムの会計年度は変更できますか?
A. ベトナムの会計年度は暦年(1月1日〜12月31日)が原則ですが、所管機関の承認を得ることで変更することが可能とされています。例えば日本本社のグループ決算期(3月末等)に合わせたい場合など、申請手続きと承認に一定の期間を要するため、設立初期から計画的に対応することが望まれます。
Q. 駐在員のPIT申告は会社と本人のどちらが行うのですか?
A. 原則として、毎月の給与に対するPITは雇用主(現地法人)が源泉徴収して納付します。年次確定申告については、居住者に該当する駐在員本人が行う義務がある場合と、会社が代行できる場合があります。また、日本本社から給与が支払われている場合や、複数の収入源がある場合は申告が複雑になることがあります。駐在員ごとの状況に応じて、現地の税務専門家に個別確認することを推奨します。

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