ベトナム現地法人の撤退費用と手順|日本企業向け完全解説2026

ベトナムに現地法人を設立した日本企業の中には、事業環境の変化や戦略転換を受けて、撤退を検討するフェーズに差し掛かるケースが増えています。しかし、撤退手続きはベトナム独自の法規制や行政手続きが複雑に絡み合っており、「どこから手をつければよいか分からない」という声を多くの経営者・海外事業担当者から聞きます。

本記事では、ベトナム現地法人の撤退を検討している日本企業向けに、撤退の種類・清算手続きの流れ・費用の目安・税務労務処理・よくあるトラブルと対策を実務的な視点で解説します。撤退を急ぐ前に全体像を把握することで、損失を最小化し、スムーズな事業終了を実現するための判断材料として活用ください。本記事は2026年6月時点の情報をもとに執筆しています。

こんな方にオススメ

  • ベトナム現地法人の清算・撤退を具体的に検討している中堅・大企業の経営者・海外事業部長
  • 撤退費用の概算や手続き期間を把握した上で取締役会・経営会議に諮りたい担当者
  • M&A売却や休眠という選択肢も含めて最適な出口戦略を比較したい方

この記事を読むと···

  • 清算・M&A売却・休眠という3つの撤退手段の違いとメリット・デメリットが分かる
  • 清算手続きの具体的なステップと、各フェーズで必要となる費用の目安が把握できる
  • 税務・労務処理の落とし穴と、撤退時に多発するトラブルへの対処法が理解できる

ベトナム現地法人の撤退:3つの選択肢を整理する

ベトナム現地法人の撤退:3つの選択肢を整理する 1 清算(会社解散) 2 M&A売却(持分譲渡) 3 休眠(事業一時停止)

ベトナムから事業を撤退する際、日本企業が取り得る手段は大きく3つの種類に分類されます。どの手段を選ぶかによって、手続きの複雑さ・費用・所要期間が大きく異なるため、まず全体像を把握することが重要です。

清算(会社解散)

最も一般的な撤退手段が法人の清算(解散)です。ベトナム企業法および投資法に基づき、会社の全資産を処分・債務を弁済した上で法人格を消滅させます。

手続きが透明で後腐れがない反面、行政手続きが多岐にわたり、一般的に6か月から1年以上かかるとされています。税務調査(Tax Audit)を経なければ清算が完了しないため、過去の会計処理が整備されているかどうかが手続きの難易度を大きく左右します。

清算には「自発的清算」と「強制清算(裁判所による破産手続き)」の2種類がありますが、日本企業の撤退では通常、自発的清算を選択します。負債超過の状態で清算する場合は、破産法に基づく手続きが必要となる場合もあるため、財務状況の確認が先決です。

M&A売却(持分譲渡)

現地法人の出資持分を第三者(ベトナム企業・外資企業・個人投資家)に譲渡することで、実質的に事業から撤退する方法です。法人格は譲渡先に引き継がれるため、清算に比べて手続き期間が短縮できる傾向があります。また、事業価値が高い場合には売却益を得られる可能性もあります。

一方で、適切な買い手を見つける作業や、デューデリジェンス対応、株式価値評価、契約交渉など多くのプロセスが発生します。また、持分譲渡に伴うキャピタルゲイン課税(一般的に20%とされています)への対応も必要です。ベトナム現地でのM&A市場は発展段階にあり、買い手探しに想定以上の時間がかかるケースも見られます。

休眠(事業一時停止)

事業を一時停止しつつも法人格を維持するのが休眠という選択肢です。ベトナム企業法上、最長12か月間の事業停止が認められており(条件により延長も可能な場合があります)、市場環境の好転を待ちながら再参入の可能性を残したい企業に向いています。

ただし、休眠中も最低限の法人維持コスト(会計士費用・ライセンス更新費用など)が発生します。また、休眠はあくまでも一時的な措置であり、根本的な撤退には至らないため、長期的なコスト負担に注意が必要です。

ベトナム現地法人の清算手続きの流れ

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ベトナム現地法人の清算手続きの流れ 1 税務クリアランスが最大のボトルネ ック 2 労務処理:従業員との適切な合意形 3 DPIへの各種届出と証明書返還

日本企業がベトナム現地法人を清算する場合、以下のステップを踏むことが一般的とされています。各フェーズで必要な書類と所管省庁が異なるため、専門家の伴走が実質的に必要不可欠です。

  1. 取締役会・株主総会での清算決議:清算方針を正式に決議し、議事録を作成します。
  2. 清算委員会の設置・申告:清算責任者(清算委員会)を任命し、管轄の計画投資局(DPI)に届出を行います。
  3. 債権者への公告・債務弁済:ベトナムの規定に従い、債権者への通知・公告を行い、全債務を弁済します。
  4. 税務調査(Final Tax Audit)の受審:税務当局による最終税務調査を受け、税務クリアランスを取得します。これが清算手続きの中で最も時間を要するフェーズです。
  5. 労働者への通知・退職金等の支払い:労働法に基づき、従業員への事前通知・退職手当の支払いを完了します。
  6. 投資登録証明書(IRC)・企業登録証明書(ERC)の返還:DPIおよびビジネス登録局に各種証明書を返納します。
  7. 銀行口座・各種ライセンスの閉鎖:銀行口座を解約し、関連するライセンス類を廃止します。
  8. 清算完了の登録・抹消:最終的に法人登記の抹消手続きを完了させます。

税務クリアランスが最大のボトルネック

清算手続き全体を通じて、税務クリアランスの取得が最もリードタイムを要するフェーズとして知られています。ベトナムの税務当局は過去数年分の帳簿を精査するため、会計記録が不整備な場合や、過去に未申告の取引がある場合には追徴課税が発生する可能性があります。一般的に税務調査の完了までには3か月から6か月以上かかるとされており、書類の追完要請や指摘事項への対応で期間がさらに延びるケースも少なくありません。

このフェーズに備えるためには、撤退を決定する前から、過去の税務申告の自己点検(事前Due Diligence)を行うことが有効とされています。弊社VACANCE VIETNAMでは、税務リスクの事前洗い出しから当局対応まで、現地専門家と連携した一貫したサポートを提供しています。

労務処理:従業員との適切な合意形成

清算に際して避けて通れないのが従業員への対応です。ベトナム労働法では、事業閉鎖に伴う解雇には原則として30日以上前の事前通知が義務付けられています(特定の状況では例外あり)。また、勤続年数に応じた退職手当(Severance Pay)または失業手当(Job Loss Allowance)の支払いが必要とされています。

労務トラブルは清算手続きの遅延要因になりやすいため、従業員との丁寧なコミュニケーションと、ベトナム人労務専門家の関与が重要です。労働局への届出・合意書の作成・支払い証明の整備まで、ドキュメンテーションを徹底することが後のトラブル防止につながります。

DPIへの各種届出と証明書返還

清算手続きにおける行政窓口として中心的な役割を担うのが、各省市の計画投資局(DPI)です。清算決議の届出から始まり、最終的な法人抹消の申請まで、DPIとのやり取りが複数回発生します。

提出書類の形式要件や翻訳・公証要件はDPIごとに細かく異なる場合があり、書類の不備による差し戻しが手続き遅延の一因となりがちです。現地の行政手続きに精通したアドバイザーの活用が、スムーズな進行に直結します。

ベトナム現地法人の撤退費用の目安

撤退にかかる費用は、法人の規模・従業員数・会計記録の整備状況・税務リスクの大小によって大きく変わります。以下の費用項目を事前に把握した上で、撤退プロジェクトの予算を策定することが重要です。

費用項目 内容 目安金額
法律・会計アドバイザリー費用 現地弁護士・会計士への依頼費用(清算全期間) USD 5,000〜20,000程度(規模による)
税務調査対応費用 Final Tax Audit対応・追徴税額(リスクに応じて変動) 追徴額は案件次第(軽微〜数百万円規模まで)
退職金・労務処理費用 従業員への退職手当・未払い給与・有給消化等 従業員規模・勤続年数により大きく変動
資産売却・処分費用 設備・在庫の売却手数料・廃棄費用・原状回復費 USD 1,000〜数万USD(資産規模による)
オフィス・工場の原状回復・解約費用 賃貸契約の解約違約金・原状回復工事費 契約条件による(デポジット没収リスクあり)
行政手数料・翻訳・公証費用 各種証明書の翻訳・公証・DPIへの手数料 USD 500〜2,000程度

費用総額の目安と注意点

上記を合算した場合、小規模な法人(従業員10名以下)でも合計でUSD 10,000〜30,000程度の撤退コストがかかるとされています。従業員規模が大きい場合や、税務リスクが顕在化した場合にはさらに費用が膨らむ傾向があります。また、撤退期間が長引くほど清算期間中の維持コスト(給与・家賃・顧問費用など)も累積するため、撤退の意思決定は早期に行うことがコスト最小化につながります。

日本側の会計処理コストも忘れずに

ベトナム側の費用だけでなく、日本親会社側での会計処理も撤退コストの一部です。子会社の清算に伴う関係会社株式の評価損、為替換算調整勘定(OCI)の損益計上、連結財務諸表への影響など、日本の会計基準(J-GAAPまたはIFRS)に基づいた処理が必要になります。

税務上も、海外子会社清算損の損金算入要件や外国子会社合算税制(タックスヘイブン対策税制)への影響を確認する必要があります。親会社の経理部門や税理士との早期連携を検討してください。

税務・労務処理の実務ポイント

撤退手続きの中で、日本企業が最も慎重に対応すべき領域が税務と労務です。この2つの領域の処理が不完全なまま清算を進めようとすると、当局からの指摘・追徴・手続き停止が発生し、スケジュール全体が大幅に遅延するリスクがあります。

税務処理:Final Tax Auditへの準備

ベトナムでは、法人清算の申請を行うと、税務当局(General Department of Taxation)による最終税務調査(Final Tax Audit)が実施されます。調査対象は通常、過去3〜5年分の法人税・VAT・個人所得税・源泉徴収税などの申告内容です。

調査で指摘されやすいポイントとしては、以下のような項目が一般的に挙げられています。経費の損金算入要件の充足状況、移転価格(関連会社間取引の適正価格)の合理性、VAT還付の適正性、従業員への現物給与の課税処理などです。撤退決定前に現地の税理士と「事前セルフ監査」を行い、リスク項目を洗い出しておくことが、追徴税額の最小化と手続き期間の短縮に有効とされています。

労務処理:退職手当の計算と合意書の整備

ベトナム労働法(Labour Code 2019)によれば、会社の清算に伴い雇用を終了する場合、使用者は従業員に対して退職手当(Severance Allowance)を支払う義務があります。支払い対象は勤続1年以上の従業員で、勤続年数に応じて計算されます(ただし2009年以降に加入している失業保険期間分は対象外とされています)。

また、清算決定から30日以上前に従業員へ書面で通知することが原則とされています。この期間内に未払い残業代・有給休暇の未消化分・賞与の精算等を完了させる必要があります。退職に合意した従業員との間で退職合意書(Settlement Agreement)を締結し、双方署名の証拠を保管しておくことが、後日の労働紛争防止に不可欠です。

社会保険・個人所得税の最終手続き

清算完了に際して、ベトナム社会保険局(VASS)への脱退届出と、個人所得税(PIT)の最終年次申告が必要です。社会保険の未納がある場合は、清算前に全額精算しなければなりません。

また、日本人駐在員がいた場合には、その個人所得税の年次精算(Finalization)を確実に行い、未申告期間がないかを確認することが重要です。これらの処理が残ったままでは、税務クリアランスの取得が進まなくなります。

撤退時のよくあるトラブルと対策

ベトナムからの撤退を試みた日本企業が直面しやすいトラブルには、いくつかの共通パターンがあります。事前に把握しておくことで、同じ失敗を避けることができます。

トラブル1:税務調査で多額の追徴が発生する

最も多いトラブルが、Final Tax Audit時に予想外の追徴税額が発生するケースです。経費の証憑書類の不備、移転価格ドキュメンテーションの欠如、VAT申告の誤りなどが主な原因として挙げられます。

対策としては、撤退決定の6か月以上前から税務デューデリジェンスを実施し、リスク項目をあらかじめ修正・開示しておくことが有効です。また、交渉スキルのある現地税務専門家を早期にアサインすることが重要です。

弊社VACANCE VIETNAMは、ベトナム税務当局との交渉実績を持つ現地専門家ネットワークと連携しており、こうした場面での支援が可能です。

トラブル2:従業員との労働紛争が発生する

退職金の計算方法や支払い時期をめぐって、従業員との間で紛争が生じるケースがあります。特に、長期勤続の従業員や管理職社員との間で退職条件の解釈に齟齬が生じやすいとされています。

解決策としては、ベトナム人労務専門家を介した退職条件の事前協議と、退職合意書への双方署名が最も確実な予防措置です。合意書に「相互に請求権がない」旨の条項を含めることも、後日の訴訟リスク軽減に役立つとされています。

トラブル3:契約上の債務・保証が残存する

賃貸借契約の解約や取引先との契約終了に際して、違約金・未払い代金・保証債務が残存するケースがあります。特に長期リース契約の途中解約や、サプライヤーへの発注キャンセルは、相手方から損害賠償請求を受けるリスクがあります。撤退を決定した段階で、すべての契約書を洗い出して解約条件・違約金条項を確認し、交渉の優先順位をつけることが重要です。

トラブル4:日本親会社への送金が遅延・困難になる

清算後の残余財産(清算配当)を日本に送金する際、ベトナム国家銀行(SBV)への申請や税務クリアランス証明の提示が必要とされています。書類が不備であると送金が遅延するほか、外国為替規制の変更により送金条件が変わる可能性もあります。資金送金のスケジュールを清算計画に組み込み、早めに銀行と手続きを確認しておくことが推奨されます。

まとめ:ベトナム撤退を成功させるための実装チェックリスト

ベトナム現地法人からの撤退は、適切な準備と現地専門家の活用によって、費用・期間・リスクを大きく抑えることが可能です。撤退を検討している日本企業の海外事業部長・経営者の方は、以下のチェックリストを活用して準備状況を確認してください。

確認項目 具体的な確認内容 実施タイミング
撤退手段の選定 清算・M&A・休眠の3手段を財務・事業状況に照らして比較検討 撤退決定前
税務デューデリジェンス 過去3〜5年分の税務リスクを現地税理士と事前点検 撤退決定後・即座に
労務リスクの確認 従業員別の退職金試算・未払い賃金・有給残の整理 撤退決定後・即座に
契約書の洗い出し 賃貸・サプライヤー・顧客との全契約の解約条件・違約金確認 撤退決定後・1か月以内
現地アドバイザーの選定 清算実績のある法律・会計事務所の起用(日越両語対応が望ましい) 撤退決定後・即座に
日本側の会計・税務処理 関係会社株式の評価損・連結調整・タックスヘイブン対策確認 撤退開始と並行して
送金計画の策定 清算後の残余財産の対日送金手続き・外為規制の確認 清算後期(フェーズ4前)

ベトナム撤退は、適切な準備と現地専門家との連携があれば、リスクを大幅に低減できます。弊社VACANCE VIETNAMは、ベトナムへの進出支援だけでなく、撤退・組織再編局面においても、現地法律・税務・労務の専門家ネットワークを活用した実務支援を提供しています。撤退を検討されている企業は、早めにご相談いただくことをお勧めします。

よくある質問

Q. ベトナム現地法人の清算にはどのくらいの期間がかかりますか?
A. 一般的に、清算手続きの完了までには最短6か月、通常は1年以上かかるとされています。税務調査(Final Tax Audit)が最も時間を要するフェーズであり、過去の会計処理の状態や税務リスクの大きさによって期間は大きく変わります。書類の不備や当局からの追加質問への対応が増えると、さらに期間が延びる可能性があります。
Q. 清算とM&A売却のどちらが有利ですか?
A. どちらが有利かは、法人の財務状況・事業価値・撤退スピード・買い手の有無によって異なります。事業価値が残っており買い手が見つかる場合は、M&A売却の方が清算コストを抑えつつ売却益を得られる可能性があります。一方、買い手探しに時間がかかる場合や負債超過の場合には、清算の方が確実な撤退手段となります。専門家による事前評価を踏まえて選択することが重要です。
Q. 撤退費用はどのように見積もればよいですか?
A. 撤退費用の見積もりには、①アドバイザリー費用、②税務調査での追徴リスク額、③退職金・労務費用、④資産処分・原状回復費用、⑤行政手数料の5項目を洗い出すことが基本です。特に税務リスクは事前の自己点検をしないと試算が難しいため、撤退決定後は速やかに現地税務専門家に相談することが推奨されます。
Q. 休眠という選択肢はコスト面でどうですか?
A. 休眠中も最低限の法人維持コスト(会計士・税務申告費用・ライセンス更新費など)が継続して発生します。また、休眠は最長12か月が原則とされており、長期間の休眠は認められない場合があります。再参入の可能性が具体的にある場合を除き、維持コストの累積を考えると早期に清算を決断する方がトータルコストを抑えられる傾向があります。
Q. 撤退後に日本に残余財産を送金できますか?
A. 清算後の残余財産は、税務クリアランスの取得と外国為替管理の規定を満たした上で、対日送金が可能とされています。送金には国家銀行への申請・所定の証明書類の提出が必要であり、書類の不備があると送金が遅延するリスクがあります。送金計画は清算後期のフェーズで銀行と事前に手続きを確認しておくことが重要です。

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